
傾聴中は自分の意見を言わないのはもちろん、アドバイスもしません。
単に受け身で何も言わずに聞くだけではなく、人との関わり方でもあり、一定のスキルが求められます。(心理カウンセリングでは傾聴技法といわれています。)
そのため実際にやってみると難しく感じられたり、不自然な会話になることがあります。
私自身今まで心理カウンセラーとして約20年傾聴を使い、1000人以上に傾聴のやり方をレクチャーしてきました。
この記事ではその経験から得た傾聴の特徴と目的、具体的な聴き方と効果について解説します。
傾聴とは|意味と目的
傾聴は元々心理カウンセリングで使われており、相手を的確に理解し、相手とより良い関係を築く目的で使われています。
来談者中心療法とも言われており(アメリカの心理学者、カール・ロジャーズが提唱)、日本では1940年頃から使われ、今では世界中のカウンセラーが使用している聴き方・関わり方です。
英語ではアクティブリスニングと呼ばれ、受け身で聞くわけではなく積極的に聴きます。
傾聴時はただ黙って聞くのではなく、相手の表情、視線、姿勢、声のトーン、言葉の内容、呼吸に意識を集中して聴き、話し手がわかってもらえた・受け止めてもらえたと感じられる聞き方をします。
目的として相手を的確に理解するのに役立つだけでなく、あなただからこそ話せるという信頼関係(ラポール)を築くのに役立ちます。
傾聴時にアドバイスをしたり、自分の考えや意見は伝えない理由はシンプルで、自分のことをわかってもらっていない時点でのアドバイスは、今の自分を否定されたと感じられたり、例えそのアドバイスが適切でも納得できないためです。ただ聞いて欲しいだけの時もあります。
日常生活での傾聴例
例えばもしお子さんに、「学校から帰る途中で寄り道して、変わった自動販売機を見つけた」と言われたら、「そう、学校から帰る途中で寄り道して、変わった自動販売機を見つけたのね。」と返す感じです。
話を聴いてすぐに「寄り道しちゃだめでしょ」と言うのでもなく、すぐに「どこにあったの?」と質問することとも違います。
傾聴では、基本的に話し手が話したいことを話したいように、感じたままに自由に話してもらいます。当然ですが、ただ話しを聴いて欲しい時に「~してみたら?」や「~しちゃだめでしょ。」という感じでアドバイスや説教で返されると、それ以上話す気をなくします。
この場合の「どこにあったの?」という質問は、聴き手が聴きたい事であって、話し手がそのタイミングで話したいこととは、ずれている可能性もあります。
傾聴は話し手を尊重している会話でもあり、その聞き方で話し手がどう感じたかを重要視します。
では、どんな風に傾聴すれば自由に話してもらいやすいのか、話し手に「受け止めてもらえた」と感じてもらえるのか、傾聴の方法を紹介します。
傾聴の方法
傾聴はビジネスや日常生活にも使えますが、ここではどんな場面にも応用が効く心理カウンセリングでの傾聴技法について解説します。
聴き方の前に非常に大切なのが、聴く時の心構えです。というのも傾聴技法は
- 相手を理解したい
- 相手と良い関係を築きたい
という聴き手の核となる思いが、具体的な形になった聴き方だからです。この思い抜きにスキルのみ使うと上滑りの不自然な会話になります。
★図を加える
この思いに加えて、以下の傾聴スキルを使いながら話を聞きます。
受け止め方と聴く時の態度
傾聴時は、相手の存在そのものを受け止める心構えで関わります。心理学的には、受容といわれています。
受容は決して相手を否定したり評価しない考え方なので、相手の方に話しやすさを感じてもらえます。
詳細:受容とは|心理学での意味と方法、効果
否定されたり評価されないことがわかると、話しやすいと感じてもらえ、素を出してもらいやすくなります。具体的には次のような態度、関わり方で話しやすさを感じてもらいます。
- 相手が安心できる笑顔
- 姿勢(身体を相手に向ける)
- 視線を合わせる
- 相手が安心出来る声のトーンで関わる
- 安心出来る目の表情で関わる
表情は話し手が辛い話題を話した時は当然笑顔ではなく、その気持ちを汲む表情で関わります。
特に大事なのが目を見て関わることで、
に繋がります。苦しい思いであればあるほど、出したときにそれを受け止めてくれなかったら、気持ちのやり場が無くなって余計に苦しくなります。
そのため話し手は、どこまで話せる人か?を聞き手の態度・関わり方を見て無意識に判断しています。
詳細:受容的な態度とは|カウンセラーが使う話しやすい雰囲気の作り方
うなずきとあいづち
うなずきとあいづちは普段の会話で使っている方も多いです。
うなずき=首を縦に振ってうなずくこと
あいづち=合いの手(はい、えぇ、そうなんですね)を入れて聞くことです。
うなずきとあいづちは無しでも話を聞けますが、話し手に聞いてもらえていると感じてもらうために意識して入れます。
相手の感情を汲み取りながら行うことが大切で、適当にうなずかれたり、同じトーンであいづちを入れられると逆効果です。
オウム返し
オウム返しは相手の言葉をそのまま繰り返すことです。例えば

と言われたら、

と相手の言葉を繰り返します。わかってもらえていると感じてもらえたり、お相手が自分自身を客観的に見つめることにも繋がります。
シンプルですがスキルが求められ、慣れないうちは聞き手が言葉を繰り返すことにのみ意識が向き、不自然に感じられることもあります。
共感
共感とは、相手の気持ちを汲み取って伝えることです。
例えば上記オウム返しの後に、

といった形で相手の感情を汲み取ります。
自分の状況だけでなく、感情の部分もわかってもらえると感じられると、それだけで気持ちが楽になります。
共感でモヤモヤした気持ち、普段の生活では言いにくい気持ちを聞き手が言語化します。結果としてマイナスの感情を持っていてもいいんだなと感じられ、その状態の自分を肯定できる(自己肯定感が高まる)効果があります。
効果的な質問
傾聴はアクティブリスニングでもありますので、積極的に聞いていきます。受け身で聞くだけでなく、聞き手から質問も行います。上記の例であれば

という感じで、お相手が気になっている事・話したいと思われている事について深めたり、お相手の状況について質問し、問題を明確にしていきます。
心理カウンセリングにおいては、特に相談者が辛い事・苦しい事を明確にする質問をします。理由は苦しいことが明確になると、それについて具体的にどうすれば良いかも明確になるためです。
質問の仕方で会話の方向性は大きく変わり、会話の主導権は聞く側が握っています。
上記の傾聴技法
- 受容的な態度
- うなずきとあいづち
- オウム返し
- 共感のことば
- 効果的な質問
をすべて使いながら相談を聴くと、↓のような形になります。
傾聴の事例
実際にやってみるとわかりますが、集中力をかなり使う聴き方なので、慣れないうちは聞き手はかなり疲れます。ただ、上記の聞き方をすると必然的に相手に強く意識を向ける必要があり、その姿勢が話し手の心をほぐしていきます。
続いて傾聴の具体的な効果を解説します。
傾聴の効果5つ
主に次の効果があります。
- 絶対的な信頼関係を築ける
- 気持ちが楽になる、ストレスが解消される
- 感情が明確になり、ポジティブになれる
- 承認欲求が満たされ、自己肯定感が高まる
- 自分の状況を客観的に見れ、整理できる
詳細を解説します。
1 絶対的な信頼関係を築ける
傾聴であなただからこそ話せるという信頼関係(ラポール)を築くことができます。
ラポールが築けると次の2つのメリットがあります。
- より深い悩みを打ち明けてもらえる
- 問題解決に必要な情報、アドバイスを受け取ってもらえる
悩みには比較的言いやすいものと、打ち明けにくい重い悩みがあります。ラポールがあるとより深い悩みを打ち明けてもらえるようになり、結果としてより納得感が強い心の問題解決に繫がります。
また、傾聴時はアドバイスはしませんが、カウンセリング終盤では心の問題解決のためのアドバイス・情報提供するケースもあります。
たとえ正しい事を言われても、自分の事をわかってもらえていない人からのアドバイスは受け入れられませんが、自分の事をしっかり理解してもらえていると、納得して受け取れます。
2 気持ちが楽になる、ストレスが解消される
特にイラ立ちや不満感は溜め込むとうつにもつながりますが、言葉に出し、わかってもらえたり受け止めてもらえると、その気持ちがクリアになります。
何らかの不安感や、寂しさ、苦しさ等も誰かにわかってもらえると気持ちが楽になります。自分の事をわかってくれる人がこの世に1人いるだけでも、大きな安心感があります。
3 感情が明確になり、ポジティブになれる
傾聴時は、聞き手が共感の言葉を伝え、気持ちを汲み取りながら関わります。
何となくモヤモヤする、落ち込むという状態から、これに対して不安だったんだ、これに対して本当は腹を立てていたんだという自分の感情が明確になると、その感情の浄化につながります。
さらに共感の効果として、マイナスの気持ちを出しても、持っていてもいいんだなと感じられます。
特にマイナスの感情は日常生活では出しにくいものです。人間関係に摩擦を生む恐れもありますし、仕事に支障をきたしてしまう場合もあります。
世間的にもネガティブではなくポジティブに!というイメージが尊重される風潮がありますので、そうなると無意識のうちにネガティブな感情を持っていてはいけない、(例:誰かを憎んではいけない、腹を立ててはいけない)と思いやすいです。
つまり、ネガティブな自分はダメだという意識が、傾聴で

と共感されることで、ネガティブな感情を持っている自分自身でもいいんだなと感じてもらえます。その結果、元気を取り戻し、自然とポジティブになれる効果があります。
腹が立つ度にそんな自分はダメだと感じるのと、「人であればそう感じる時もある」と思えるのとでは、ストレスの感じ方も大きく変わります。
4 承認欲求が満たされ、自己肯定感が高まる
承認欲求とは、自分のことをわかって欲しい・認めて欲しいという誰もが持っている欲求です。
傾聴で話しを聞いてもらえると、「わかってもらえた」という感覚だけでなく、認めてもらえた、自分を尊重してくれたという感覚も生まれます。
傾聴で承認欲求が満たされると、結果として自己肯定感も高まります。自己肯定感とは、自分にOKを出せる感覚の事です。自己肯定感が高まるとシンプルに生きやすいですし、自分だけでなく他人も認められるようになり、人間関係が楽になります。
5 自分の状況を客観的に見れ、整理できる
悩みや苦しさが強い時はどうしても視野が狭くなり、状況を冷静に見たり、適切な判断・選択をするのが難しくなります。
傾聴者はある意味話し手の鏡役です。例えば寝癖は自分ではわかりにくいですが、鏡を見ればどのあたりを整えれば良いかすぐにわかります。この心バージョンの会話が傾聴です。
具体的に何に悩んでいて、どんな事が苦しいのか、自分自身の状況や感情が明確になり、整理されるとそれだけでスッキリできる効果があります。
自分自身の事が客観的に見えると、これからどうしていくのがベストなのか、その答えや問題解決の新しい観点を、自分自身で掴めるケースもあります。
まとめ
傾聴とは、各種傾聴技法を使いながら相手の話を、そのまま受け止めながら聴くことです。
特に大切なのは、その聞き方で話し手がどう感じたか?です。「わかってもらえた」と感じてもらえる聴き方、関わり方で、相手と信頼関係を築いていきます。
傾聴するだけで、話し手が自分の方向性や問題解決方法を自分で見つけられるの?
という疑問をお持ちの方もいらっしゃいますが、ケースバイケースでそうなる場合もあれば、そうならない場合ももちろんあります。心の問題解決に関しては、傾聴だけでは限界があるのも事実です。