傾聴はスキルなので繰り返しトレーニングすれば必ずできるようになりますが、頭ではわかっているけれども、どうしても出来ないケースもあります。
オウム返しや効果的な質問が出来ない場合は自覚しやすいのですが、どうしても共感できない・相手に集中出来ないケースが多いです。この記事ではその理由と対処方法を解説します。
※ この記事はすでにどこかで傾聴を学んでいる方向けに書いています。傾聴を学んでいるわけではなく、話が聞けないという方はこちらをご参考下さい。
何が出来ないのか明確にする
「傾聴できない」というのは、明確ではありません。
傾聴技法は主に次の5つに細分化されます。
まず何が出来ていて何が出来ていないのか、明確にしてみて下さい。
特にオウム返しはシンプルですがスキルを必要とします。始めのうちは上手くやれなくて当然です。
共感出来ない理由と対策を紹介します。
共感できない理由と改善方法
共感が上手く出来ない場合、
- 共感の言葉は伝えられるけれど、その言葉に気持ちが乗らない
- 共感の言葉がどうしても出てこない
ケースに分かれます。その理由としては、
- 共感時に意識が自分に向いている。
- 自分自身の感情に繊細ではない。
(何らかの感情にブレーキがかかっている)
事がほとんどです。詳細を解説します
共感の言葉に気持ちが乗らない場合
共感の言葉はなんとか伝えられるけれど、その言葉に感情が乗っていかない状態です。この状態では共感が機能せず、逆効果になります。
もしあなたがすごく寂しいときに、感情が乗っていない言葉で
と言われたらカチンとくると思います。「全然わかってないだろう!!」と感じるのが自然です。
スキルの形としては共感できても、それに感情・言葉の温度が乗らない場合、共感を伝える時の意識が相手ではなく、自分に向いていないかどうかをまず振り返ってみて下さい。
聴き手が、相手と良い関係を築きたいと思いながら関わっておらず、自分のスキル習得に強く意識が向いていると、言葉が浮いた共感になりやすいです。
これは聴き手が傾聴の本来の目的、
相手と良い関係を築きたい、しっかり理解したいと思いながら関わる
を取り戻すだけでカバーできます。
傾聴トレーニングに取り組んでいると、どうしてもスキルを習得する自分自身に意識が向くため、比較的多いケースです。これで改善されない場合、次の方法に取り組んでみて下さい。
自分のマイナスの感情に繊細になる
自分のマイナスの感情に繊細であればあるほど、相手のマイナスの感情を繊細に感じ取ることができます。
特に男性は女性と比較して、自分の感情に繊細でない方が多いです。性質的な面もありますし、「男なんだから泣くんじゃない」という風潮も関係していると思います。
方法は簡単で、普段の生活で自分自身のマイナスの感情が湧いてきた時にそれをチェックするだけです。マイナスの感情とは、辛い、苦しい、腹が立つといった感情です。
詳細:共感の言葉の種類
- どんな状況で
- 誰からの言葉で
- どんな内容の言葉で
- どう感じたのか
といった内容を日付を含めてメモしておくと良いです。2番目と3番目の「言葉」は無くともマイナスの感情が湧いてくる時もあります。
マイナスの感情が湧いたのであれば、どんな状況でもOKです。「道を歩いていたら車がスレスレをすごいスピードで走っていって、怒鳴ろうかと思うくらい腹が立った」といったイメージです。
これをやれば、確実に自分のマイナスの感情に繊細になることができ、共感の言葉もしっかりと相手の気持ちを汲み取りながら伝えられるようになります。
過去のトラウマがある場合
共感のスキルトレーニングをしていると、自分自身の過去のトラウマ(未消化の苦しい体験)が浮き上がるケースがあります。
これは過去何らかの苦しい体験をしていると、無意識のうちにその時の感情を抑え込む心の習慣ができあがるためです。
人はあまりにも苦しい体験があると、感情を止めて、感じないようにしてその場を乗り越える・やり過ごす事があります。
例えば幼い時に父親が母親に対して暴力をふるっていた場合、父親に対して怒りや憎しみがあっても、それをまともに感じてまともに出していたら家におれず、生活出来ません。そんな時は無意識のうちにその感覚を止めて、苦しさを感じないようにします。
自分自身の中にこういった何らかの抑え込んでいる感情があると、当然ながら他人の同じような気持ちを適切に汲み取って共感することは出来ません。抑え込んで自分が感じないようにしているので、それがどのような気持ちがイメージ出来ないためです。
こういった感じないようにしている・抑え込んでいる感情があると、その人自身うつ状態にもなりやすいです。
改善方法
上記のような何らかのトラウマ(未消化の苦しい体験)がある場合、カウンセリングでそれをクリアにするのが適切です。
カウンセリングという安全な場で、その時本当に感じてたことを振り返り、ご自身の気持ちを浄化出来ると、他人の同じような気持ちにも触れていけるようになります。
今はその感情と向き合うのが難しいようであれば、傾聴トレーニングは一旦少しお休みするのも1つの方法です。そんな時にトレーニングしても辛いです。早く咲いた花が必ずしもきれいではないのと同じように、早く出来ることがすばらしい訳ではありません。
集中して傾聴できない場合
傾聴には集中力が必要不可欠です。集中出来ない・途中で集中が切れる時は、以下のポイントに気を配ってみて下さい。
1 聞き手のストレス・疲労感が強い時は集中しにくい
他人の心のケアどころではなく、まず自分自身の心のケアが必要な時には集中して傾聴しにくいです。
そのためプロの心理カウンセラーは自分のメンタルケアにも気を配っていますが、ストレスが強い時でも、
自分の感情と相手の感情をきっちり分けて聴く
事に意識を向けると集中しやすいです。
2 目的を明確にする
カウンセリング時に集中を維持しながら傾聴出来るのは、目的が明確だからこそです。相談者の方の事を知るのはもちろん、信頼関係を築くため、相談者の方の問題解決のために傾聴します。
これがカウンセリングではなく、仕事や日常生活での傾聴となると目的をしっかりと意識しておかないと、ただ受け身で聴く事にもなりかねません。話を聴く意味や目的が不明確だと、どうしても集中しづらくなりますので、常に傾聴する目的は意識しておいた方が集中しやすいです。
相手の方をよく知る、繋がりを維持しておく等、集中が切れる時は傾聴する目的をしっかりと意識してみて下さい。
3 時間を明確にする
カウンセリングで集中して傾聴出来るのは、時間が明確に決っているからこそです。これがいつまで話を聴くのかわからない状態だと、集中を維持しながら傾聴し続けるのは難しいです。
10分だけ聴く、30分だけ聴く等、傾聴する時間を明確にする、区切る事で集中力を維持しやすくなります。
4 よく寝ておく
これは傾聴に限りませんが、睡眠不足だと集中力は落ちます。傾聴している時は、聴き手は相手の表情や声のトーン、姿勢、言葉の内容等に意識を張り巡らせているので、かなり力を使います。
しっかり集中力を発揮するためには、しっかりとした休息が必要不可欠です。寝ましょう。
5 慣れる
実はこれもかなり大きいです。傾聴すればする程傾聴力が身に付きますので、集中力を維持するのが楽になります。
というのも傾聴トレーニング中は、どうしても意識を振るポイントが多くなります。自分自身の表情や姿勢、声のトーンに気を配りつつ、相手の表情や言葉の内容にも意識を振らないといけないので、慣れないうちはどうしても意識を振るポイントが多くなり、力を使います。汗もかきます。
これが慣れてくると意識を振らなくても出来る事が増えるため、楽に傾聴出来るようになり、集中力も維持しやすくなります。
私自身カウンセリングのトレーニングで、カウンセリング講座のアシスタントに入る事が多かったんですね。アシスタントの役割として、講座の流れを意識して、必要な事をその場その場で判断する必要があったので、講師の話や、講座中の受講生の様子に集中して意識を振っておく必要がありました。
講座の時間は90分程度だったのですが、始めの頃は講座途中で意識が飛んでしまい、講座の内容さえ聞けていない事もあったのですが、回数をこなせばそれは無くなっていきました。
回数と時間を増やせば必然的に慣れます。傾聴時の集中力も、トレーニングすればする程身に付きます。
家族に傾聴出来ない場合
傾聴トレーニングを行っていると、参加者から家族間での傾聴はやりにくいという声を聞く事があります。理由としては
- 付き合いが長いため、家族の事をすでに良く知っている
- 他人よりもお互いの意見を言いやすい関係性が出来上がっている
の2点が大きいです。
ただ、家族はとても大切な存在ですので、家族間でこそ傾聴を使った方が良いと思います。
※もちろん家族との会話は100%常に傾聴すべきという意味ではありません。そうだと自分の意見が言えなくなっちゃいますので。傾聴すべきタイミングで使うという意味です。
家族の話を傾聴する時のポイント
やり方はとても簡単です。ポイントとしては、とにかく
家族だと、どうしても自分の意見を言いたくなります。
例えばAさん(60代男性)の奥さんは、やや対人恐怖的な傾向があり、ある時
と言ったんですね。Aさん自身は、実際にBさんに接してみて特に嫌な人とは感じていませんでした。
それを近くで聞いていたAさんの娘さんが
と聞いたんですね。すると
と返ってきました。
それに対してAさんは
と返したんですね。もっともな意見ですし、家族だとこういう返しになりやすいと思います。
ただ、この聞き方は傾聴ではないですし、受け止めてもいません。
受け止めるのであれば、自分の意見を挟むのではなく「そう思ったんだ」とシンプルに受け止めます。欲を言えば
ほっといてくれって思ったんだ。
とオウム返しも出来るとベターです。オウム返しされると、自分のことを客観的に見れます。
受け止めて返した上で、なんでそう思うんだろ?という疑問が湧いてくれば、それをそのまま聞けば良いですし、Bさんの事嫌いなんだな と感じられたらそれをそのまま「Bさんの事嫌いなの?」と聞けばOKです。
実際Aさんの奥さんは、Bさんの事が嫌いでした。嫌いになったきっかけは色々とありましたが、Bさんがサイズを間違えて買った服を、Aさんの奥さんに「買ってくれないか?」と持ちかけて、Aさんの奥さんがそれを断りきれなかった(近所なので断ると角が立つのではないかと思った)事だったんですね。
これは私が後々になってAさんの奥さんから話を聞いたためわかったのですが、話を聞いてもらえない雰囲気(受け止めてくれない)で言えないとスッキリ出来ないですし、「わかってもらえた」という感覚は持てません。
家族にこそ傾聴を使うべき
家族の話は、しっかりと聞き切る前にどうしても自分の意見を言いがちになります。
家族に自分の意見を伝えるのは自然な事ですが、だからといって傾聴出来ない訳ではありません。とりあえず受け止める事を心がけてからご自身の意見を伝えてみて下さい。
せっかく傾聴を習った・使えるのにも関わらず、それを大切な家族に使わないのは、とてももったいない事だと思います。
傾聴を学んでおらず話が聞けない方
話が聞けない理由はシンプルで、会話中に意識が自分に強く向くためです。
詳細は人の話を聞けない理由2つと簡単に改善する方法の記事をご参照下さい。
まとめ
傾聴トレーニングをしていると、自分自身のコミュニケーションのクセが浮き上がることが多いです。
それに取り組めば、傾聴力・コミュニケーション力がアップするだけでなく、楽な生き方が身に付きます。
傾聴は、話し手にとってメリットが大きいだけでなく、聞き手がトレーニングの課程で大きなメリットを得られます。