行動療法とは、文字通り行動を通して悩みや課題を克服していく心理療法です。
心理療法なのですが、特徴としては「心理」の部分にはほとんどアプローチしません。
例えば「人と上手く話が出来ない」のであれば、ある程度の状況は聞きますが、その心理的な部分は突き詰めません。
心理面を突いていくと、「なぜ人とうまく話が出来ないのか?」→思った事・感じた事を自由に発言するのが苦手だから。「それはいつ頃からなのか?親との関わりはどうだったのか?」といった流れになりますが、行動療法ではそれをせず、具体的な行動に重点を置いています。
人と上手く話が出来ないのであれば、「まずは5秒だけ相手の目を見るようにしてみて下さい。」等、具体的な行動を伝え、それを安全なカウンセリングの場でやってみてもらいます。やってみる(行動してみる)ことで気持ちの変化も作れます。
人によって、行動療法が向いている人とそうでない人もいます。心理面にアプローチしないので、小さなお子さんにも効果的な療法です。
行動療法の基本的な考え方
行動療法の基本は、「無意識のうちに学習した事で、不具合となるものを書き換える」という点です。
例えば電気工事の仕事をしていて、建物の3階から落っこちて骨を折る怪我をすると、次同じような高さの場所に立つと以前の事が思い出され、怖くて足がすくみます。
高い所=怖い
という風に、考えることなく以前の体験でそう感じてしまいます。
これを行動療法では条件付けとよんでいます。
これは人の安全に生きたいという本能的な面からくる学習でもありますが、電気工事の仕事をしていて高いところが苦手だと仕事に差し支えが出ますので、大きな問題です。その学習が日常生活に不具合をきたすようであれば改善していく必要があります。
条件付けについて
上記のように無意識のうちに条件付けされますので、人に限らず動物でも条件付けされます。条件付けの発見の元となっているのが、パブロフの犬の実験です。
パブロフの犬の実験は、イワン・ペトローヴィチ・パブロフ(1849~1936)というロシアの生理学者が発見してます。犬が飼育員の足音を聞くだけで、餌がもらえると学習して唾液を出している事から、足音=餌という風に条件付けられているのではないかと定義し、そこから実験を深めています。
条件付けは、無意識のうちに染み付くこともあれば、それを書き換えていくことも出来ます。書き換えに効果的な方法の1つがリラクセーション(系統的脱感作法)です。
リラクセーション(系統的脱感作法)
これはシンプルに身体のリラックスをまず作ることで、気持ちのリラックスにつなげていく方法です。
例えば、上記の高所恐怖症の例であれば、高い所は怖いものという条件付けがつけば、「怖さの反応」が身体に表れます。具体的には、高いところに立つとそれだけで呼吸が早くなったり、身体がすくんでまるまったりします。
行動療法のポイントは、「行動のハードルを下げることで、まずやってみる」という点です。いきなり落ちた高さの場所は怖すぎるので、低いところから徐々に慣らしていきます。
慣らす方法としては、系統的脱感作法では、怖さの反応が出たときにまずは身体のリラックスを作ります。ある程度の高さの場所に立つと、呼吸が早くなったり身体が固くなったりしますので、呼吸を深くゆっくりとし、手足を揺さぶって身体のリラックスを作ります。
身体がリラックスすると、気持ちも落ち着いてきます。怖さもどこかに飛んでいきます。これを少しづつ高さを上げて、「高い所は怖い」という条件付けを書き換えていきます。
リラクセーションは、高所恐怖症などの問題を解決できるだけでなく、オリンピック選手が試合での緊張をほぐすために使ったり、自分自身のパフォーマンスを100%発揮していくためにも使えます。
著者が好きなTV番組「探偵ナイトスクープ」でもよく行動療法が応用されているので、具体的なケースを交えながら、どんな時に効果的なのか?を紹介します。どのケースも、とても短時間で問題を克服出来ているのが大きな特徴です。
恐怖症関係を克服
金属音恐怖症
兵庫県の女子大生(23)から。この4月から社会人になるが、就職するにあたって、どうしても克服したいことがある。
それは小銭同士がこすれあう金属音。たとえばコンビニで、レジ横のカウンターに置いた小銭を店員さんがかき集める時に出るアノ音。“アノ音”を聞くと震えが止まらず、叫んでしまうこともしばしば。
それ以外にもいろいろな金属音が私を苦しめる。4月から営業の仕事に就くが、仕事先で“アノ音”を聞いたら、取引先の人の前で失礼な態度を取ってしまいそうで怖い。この金属音嫌いを克服したいので助けて欲しい。
引用元:ABC朝日放送HP
行動療法で行ったイメージの書き換え
この場合は、依頼者の過去の何らかの経験で、「金属音=怖いもの」という風に条件付けられています。
このケースの問題解決のためには、その心理を探るよりは、この条件付けを行動して書き換えていったほうが早くて効果的です。
実際にナイトスクープでも、金属音が怖いもの→金属音は楽しいものという風に書き換わる行動をしてます。ゲームセンターのカジノのコインゲームでコインをジャラジャラと触りまくって、あっという間に克服。
このシンプルさが行動療法の良さだと思います。つべこべ考えるよりやってみるほうが早いことは多いです。行動療法では、この「やってみる」ハードルを下げることを重要視してます。
いずれのケースにしても、1人でやってみるのは怖いですし初めの一歩が踏み出しにくいので、同伴者がいてくれると心強いです。
ちくわ恐怖症
大学のゼミのメンバーの中に“ちくわ恐怖症”の女性がいる。ゼミでよく鍋パーティーをするが、彼女はちくわが入っていると、大騒ぎして逃げ出してしまう。冗談だと思って、ちくわを見せ続けると号泣したこともある。
どうもちくわの穴が恐いらしいが、学生が大勢で食事をするときには、手ごろな価格のちくわはとても重要な存在。彼女の将来のためにも、ちくわ恐怖症の克服に協力して欲しい。
引用元:ABC朝日放送HP
ちくわ恐怖症の女性は、なぜちくわが怖いのか自分でもまったく原因はわかりませんでしたが、親御さんいわく「1才半くらいの時に、電車の足元にある暖房の小さな穴に指を突っ込んで、抜けなくなったことがある」と。その時の経験で、小さな穴=怖いものという条件付けが出来上がってしまっていたと感じます。
この方はちくわに限らず、小さなドーナツや、床に脱ぎ捨てられて輪っか状になったスカートなど、「小さな穴が怖い」という感覚が強かったんですね。
行動療法で行ったイメージの書き換え
克服した方法はとてもシンプルで、単に行動しただけです。「部屋の中で1人でちくわと向き合い、穴に指を入れる」→「小さな穴は怖くないという実感を持つ」
というとてもシンプルな方法で条件付けを書き換えられています。
風船恐怖症
奈良県の女性(22才)。この春、希望していた洋服販売の仕事につくことができた。毎日楽しく仕事をしているが、一つだけ困っていることがある。それは、店にたくさんの風船があること。お子様が来店されたときのプレゼント用だが、私は風船が大の苦手で、近寄ることができない。
過去にトラウマになるような出来事はないが、小学生のころからずっと、風船を避け続けて生活してきた。しかし店には常に風船があり、逃げ場所がない。風船の管理をするのも社員の仕事。このままでは仕事にならないので、どうか助けて欲しい。
引用元:ABC朝日放送HP
この方は風船が怖い理由として、「いつ割れるかわからない」「割れた時の音が怖い」と明確でした。
行動療法で行ったイメージの書き換え
克服した方法はこれもシンプルで、実際に風船を割って怖さに慣れるという事と、人が入れるくらいの大きさの風船の中に入って、さらにその大きな風船の中に140個の普通サイズの大きさの風船を入れ、「風船は楽しい!」という体験をする事で、「風船は怖い」という条件付けを書き換えていました。
子供の問題行動を行動療法で改善する
行動療法は、心理の部分は追求しないので、子供さんの問題行動を改善するのにも効果的です。事例を通して紹介します。
父親のことを「とうちゃん」と言わない子供
とうちゃんと呼ばせたい。
京都市の男性(35)から。1歳8か月の息子が、母親の事も僕の事も「あーちゃん」と呼ぶ。どれだけ教えても絶対に「とーちゃん」ではなく、「あーちゃん」と呼ぶ。お姉ちゃんの事は「ねーねー」、おじいちゃんの事は「じーちゃん」と呼べるし、最近は近所のお兄ちゃんの名前まで言えるようになった。それなのに、僕の事は頑なに「あーちゃん」のまま。
うちには「あーちゃん」が2人いることになり、いったいどっちを呼んでいるのか、わからなくて困ることもある。何よりも「とーちゃん」と呼んでもらえない事が悔しい。なんとか息子に「とーちゃん」と呼んでもらえるようにして欲しい。
引用元:ABC朝日放送HP
この1歳8か月の子供に、「なんでとうちゃんって呼ばないの?」と聞いて心理の部分を追求しても、答えられるわけもありません。
報酬を与えて変化を促す(行動強化法)
この場合は小児科医の谷先生が登場し、4人ほどで輪になり、歌遊びでゲーム感覚で手拍子を取りながら「とうちゃん」と呼んでもらえるように促しています。とうちゃんと呼んだらしっかりと褒める、それ以外の時は残念な表情をする、という方法で「とうちゃん」と呼べるように改善されていました。
歌あそびでは、1歳8か月の子供以外の母親や姉は、父親のことを「とうちゃん」と呼び、呼んだらみんなで拍手するという方法で、1歳の子に「とうちゃん」と呼ぶことを促しています。
行動療法では、こうやって何かが出来た時に褒めたり、プレゼント(報酬)をあげてその行動を条件付ける事を、行動強化法と呼んでいます。
これは、○○すると楽しい!良い事がある!という体験で行動の条件付けを新しくつける方法で、行動療法ではオペラント条件付けとも言われています。
ちなみに高所恐怖症の場合は、「高いところは怖い」という感情の条件付けが出来上がっています。その感情の条件付けをレスポンデント条件付けとよんでいます。
まとめ
行動療法とは、行動する(やってみる)ことで問題行動を改善したり、自分自身の良いパフォーマンスを発揮するのに効果的な心理療法です。
基本の考え方として、条件付けを応用しています。
何にせよ初めの一歩を踏み出すのには大きな力が必要ですが、行動療法はそのハードルを極力低くして行動に繋げ、なりたい自分を創るための知恵の結晶だと思います。